一発でわかる!「環境犯罪学」
はじめに
例えば近年の凶悪事件においては、犯罪は本人の心の問題として語られることが多いように思う。しかし、犯罪の原因(例えば心)を考察し、犯罪を減らそうという考え方は、近年には主流ではなくなっている。むしろ犯罪の機会を減らし、犯罪を未然に防ごう、というのが近年の動きである。上記のような観点から、本稿では、人物より場所を問題として取り扱う環境犯罪学について調べた。
「心」より「場所」を問題とする犯罪学へ
犯罪者の病んだ心、邪悪な心を正せば、犯罪は確かに起こらない、と小宮は述べている。このように、犯罪原因を犯罪者の心に求め、犯罪を減らしていこうとする考え方を、犯罪原因論と呼ぶ。これはかつて主流だった犯罪学である、と小宮は位置づけている。
「しかし、それはそう簡単なことではない」と小宮は指摘する。また、
犯罪を引き起こす心とは、どのようなものなのか。それすらよく分かっていないのが現状である。
と小宮は言う(小宮,2005:3)。また、小宮は
「おとなしい性格」や「いじめを受けていた」人物が犯罪を行うこともあるが、そのような人物の全員が犯罪を犯すわけではない。そのような特徴は、何の説明にもなっていない
と述べている(小宮,2005:3-4)。
では、どのようにして犯罪対策を考えれば良いのであろうか。犯罪は「入りやすい場所」、「見えにくい場所」で起こる、と小宮は言う。つまり、この「『場所』に注目し犯罪機会を与えなければ良い」、と小宮は指摘する(小宮,2005:4-5)。
環境犯罪学
心より場所・環境を問題とする犯罪学として近年注目されているのが、環境犯罪学である。環境犯罪学とは、
犯罪を行いやすい社会的条件や機会、すなわち犯罪にあいやすい家、犯罪被害の多い町並み、犯罪にあいやすい場所など、犯罪被害をもたらすさまざまな要因を具体的に分析し、具体的な対策を提示する実践的な考え方である
と丸は述べている(丸,2009:199)。
以下、環境犯罪学にはどのような分野があるか、数点挙げて説明しよう。まず第一に、環境犯罪学の中に含まれる理論に、割れ窓理論がある。割れ窓理論は、ウィルソンとケリングが提唱した理論である。そして「環境犯罪学の分野に含まれる理論である」、と山本は述べる(山本,2015:42-43)。
割れた窓(具体的には、落書き、公園などに散乱したゴミなど)は、縄張り意識、当事者意識が低い場所の象徴である。割れ窓が放置されている場所では、犯罪が起こりやすい。そして縄張り意識が欠如しているため立ち入りやすく、犯罪者は、当事者意識が無いため犯罪が起こっても見つからない、通報もされない、犯罪を阻止されないと考えるからである、と小宮は述べている。つまり、「犯罪減少という大きな変化を起こすためには、秩序違反を放置せずに減らしていくことから始める必要がある」、と小宮は指摘する(小宮 2005:98-101) 。
また、日常活動理論も環境犯罪学の一分野である。これは、ローレンス・コーエンとマーカス・フェルソンが提唱した理論である(丸,2009:201)。
日常活動理論とは、「日常活動における環境的な犯罪発生の『引き金』を見出すための理論」である、と丸は述べる。つまり、「動機を持った犯罪者」「ちょうどいい標的(狙いやすい場所にいる被害者)」「役に立つ監視者の不在」の3点が、どのように関わり合うかという点から、犯罪防止を考える理論である、と丸は言う。例えば、「『役に立つ監視者の不在』によって、『動機を持った犯罪者』は増加する」、と丸は述べる(丸,2009:201-202)。
そして、合理的選択理論も環境犯罪学に含まれる。合理的選択主義は、デルク・コーニッシュ、ロナウド・クラークが提唱した理論である(丸,2009:203)。
まず、意思決定には2種類あると丸は述べる。1つ目には、関与決定である。これは、犯罪に関与するか、犯罪を継続するか、犯行をやめるかという事前の意思決定である。2つ目は実行決定であり、犯罪をどのように実行するかの意思決定である。つまり、コーニッシュとクラークは、「犯罪のタイプごとに、犯罪者がどのように意思決定し実行するか、細かく区別するべき」だと述べた。「例えば、郊外の高級住宅で窃盗を行うか、オフィス街で窃盗を行うかの違い」が挙げられる、と丸は述べている(丸,2009:203-204)。
関連の犯罪対策
割れ窓理論の応用として、ニューヨーク市の秩序違反取締り事例を小宮は紹介している(小宮,2005:104-107)。岡邊の文献に同様の記述が記載されていたため、以下に岡邊の文献を引用する。
ニューヨークの地下鉄は1980年代初頭まで、物乞いや軽犯罪者が多かった上に、落書きだらけであった。そこで、当時のニューヨーク市長であるルドルフ・ジュリアーニ は、割れ窓理論を発展させた学者の1人であるケリングを顧問とし、無賃乗車や軽犯 罪を徹底的に取り締まった(岡邊,2014:109)。
また、この続きを小宮は以下のように述べている。
さらに、ブラットンが1994年、当時のニューヨーク市長であるルドルフ・ジュリアーニによってニューヨーク市警察本部長に任命されると、地下鉄での秩序違反対策を市全域に拡大した。すると、監視の目が行き届き、この場所は防犯に配慮している、と人々は考えるようになる。
つまり、警察官等の監視下で、あえて犯罪を犯そうとは考えにくくなるのである。その結果、ニューヨーク市の犯罪は7年間で半減したという(小宮,2005:106-107)。
また小宮は、被害防止教育の1つとして、地域安全マップを紹介している。「犯罪防止のためには、地域住民に自分の身体や財産を守る方法、犯罪者を寄せ付けない地域作りの方法、犯罪を起こさせない地域作りの方法を身に付けさせる必要がある」、と小宮は言い、地域安全マップはそのためのものである。小宮は地域安全マップについて、以下のように説明している。
地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を表示した地図である。言い換えれば、領域性と監視性の視点から、地域社会を点検・診断し、犯罪を洗い出したものが地域安全マップである
ということだ(小宮,2005:144)。
例えばこのような地図を子供たちが作成すれば、子供たちはどのような場所で犯罪が起こりやすいか理解できるようになり、危険な場所を避けることができる効果がある、ということを小宮は述べている(小宮,2015:64)。
また、ディズニーランド・ディズニーシーにおいても、割れ窓理論の応用が用いられている。「U23」のホームページには、
ディズニーランド・ディズニーシーでは、パーク内のささいな傷をおろそかにせず、ペンキの塗りなおしや破損箇所の修繕を見つけ次第頻繁に行うことで、従業員だけでなく、来客のマナーも向上させることに成功している
との記載がある。
海外のディズニーランド・シーでも、同様の対策が行われている。レヴィンは「パーク内には割れ窓など1つも無いという空気がみなぎっている」、と述べる。菓子の「包み紙が落ちているときでさえ、従業員が即座に対応する」という(Levine,2006:119-121)。
実行上の問題点
ここまでで、環境犯罪学とはどのようなものか、また関連の犯罪対策にはどのようなものがあるかを紹介してきた。ただし、例えば上記のような防犯活動を地域で行う際には、いくつかの問題点がある。
地域内での防犯活動は、心理的結びつきを強め、監視性を強めることにつながる、と小俣は言う。しかし、活動意欲の低下、活動の負担感、リーダーシップの問題なども起こっている。子供の防犯活動を行ってきた住民が、1年後には活動の負担感などから活動への疑問を感じるようになったという奈良市の例もある、と小俣は述べている。
小俣らの調査(2009)でも、中断した団体では、「人手不足」「平均参加者数が少ない」「活動経費を持ち出しで負担している」など、「負担感」につながる要因があった団体の比率が中断のなかった団体よりも高かったように、活動参加者の負担感は大きな問題となっている、と小俣は言う。小俣は、持続可能な防犯活動の必要性を指摘している(小俣,2011:145-148)。
このように、地域住民よる防犯活動には問題点もある。そこで、小俣らの別の調査(2009)では、住民だけでなく行政の協力も必要であるとの指摘がある。
図1 防犯活動を継続できた団体と中断した団体の問題の相違
(出典 原田豊「社会技術研究開発事業 平成21年度研究開発実施報告書」より引用作成)
図1は、2008年に実施された1都3県の防犯団体を対象とした調査(団体数は525)のデータ分析である。小俣らは以下のように述べている。
防犯活動を継続的に行ってきたグループと、途中で断念したグループとで比較を行ったところ、中断の理由としては「意欲の低下、マンネリ化」「住民の協力不足」「引き継ぎ」「仕事との両立」などがあげられた。また、「仕事との両立困難」「住民や警察の協力に不満がある」「メンバー間に問題がある」と考えられて団体で中断の割合が高いことが明らかとなった
「これより、防犯活動を無理なく持続させるために有効となりうるいくつかの要因を特定することができ、防犯活動を実施、継続する上での住民の協力、警察や行政からの支援の必要性が明らかとなった」、と小俣ら行動科学グループは結論づけている。
まとめ及び考察
危険な「場所」を洗い出し監視性を高める「割れ窓理論」を応用した対策によって、例えば凶悪な犯罪の件数が減らなくても、その地域のイメージは改善され、人々は安全になったと感じるであろう。また、軽犯罪を減らすことには役立つと考えられる。まず第一にその土地・地域のイメージを改善するという点で「割れ窓理論」は有益なものと言える。
環境犯罪学は、犯罪への具体的な対策を立てる考え方だと分かった。「役に立つ監視者の不在」によって、「動機を持った犯罪者」は増加する、と丸が述べるように、犯罪対策において監視性は重要な要素である。
監視性を高めること、または危険な場所を把握することは防犯に有効である。よって、パトロールや地域安全マップづくり等、地域での防犯活動は犯罪防止に役立ち得るとは考えられる。しかし、地域住民の協力は得られにくいことがあると分かった。明確な目的を定めた、継続しやすい活動が必要である。
また、ライフスタイルの多様化に配慮した活動を考える必要がある。例えば、職業の有無や忙しさによって地域見回りの押し付け合いになることは避けるべきである。小俣らの調査でも、「防犯活動を継続できた団体と中断した団体の問題の相違」において、ここで挙がっている問題のうち中断した団体において一番多い問題は「仕事との両立」である。地域見回りという、いわばボランティア活動に十分な時間を割くことができる住民は少数であろう。
また、住民だけでの防犯活動には限界がある。徹底した対策には警察の介入が必要であり、住民が資金を持ち寄ることにも限界があるため、行政による資金等の援助も不可欠と言える。ニューヨークほど徹底した対策を行うことはなかなか難しいとも考えられるが、その土地・地域の実情に合った範囲で、活動を行うべきである。
引用文献
小俣謙二,2011「コミュニティと防犯」,小俣謙二・島田貴仁,2011『犯罪と市民の心理学』
小宮信夫,2015『犯罪に強いまちづくりの理論と実践』イマジン出版
矢島正見、丸秀康、山本功,2009『よくわかる犯罪社会学入門』学陽出版
Michael Levine,2006, Broken Windows, Broken Business , Grand Central Publishing (=佐藤桂,2006『「壊れ窓理論」の経営学―犯罪学が解き明かすビジネスの黄金律―』光文社)
参考サイト
原田豊「社会技術研究開発事業 平成21年度研究開発実施報告書」
https://www.ristex.jp/result/criminal/pdf/H21_harada_houkokusho.pdf
2016年2月29日最終アクセス
「U23」
http://www.u23.jp/blog/broken-windows-theory.html
2016年2月29日最終アクセス
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